2019/07/31
カイオムニュースレター(Vol.1)
次世代型抗体研究 ~マルチスペシフィック抗体とは~
現在、当社が研究開発を進めるTribodyを含む、次世代型抗体と注目される抗体改変技術「マルチスペシフィック抗体」について解説します。
近年の抗体医薬品の研究開発においては、抗体のタンパク質構造を改良・応用するなどして、より有効性の高い創薬につなげるためのさまざまな抗体改変技術が生み出されてきています。
次世代型抗体を創出するこのような改変技術のなかには、通常は一つの標的しか認識することができない抗体を改変して、一つの抗体分子が複数の異なる標的に結合できるようにした多重特異性抗体(二つの抗原に結合するバイスペシフィック抗体や、さらに抗原結合部位を増やしたマルチスペシフィック抗体)創出技術があります。(図1)
(図1)
バイスペシフィック抗体技術は、米国アムジェン社の白血病治療薬ビーリンサイトが実用化されていることに加え、2018年には中外製薬のヘムライブラが血友病治療薬として発売され、がん以外の疾患領域に対しても新たな治療戦略を提供しました。
ビーリンサイトは、BiTEというバイスペシフィック抗体技術によって創製された抗体で、がん細胞を攻撃する免疫細胞「T細胞」と標的である「がん細胞」の両方に結合することによってお互いを近付けて効率的な抗がん効果を発揮することを狙っています。このような技術はT cell engager技術と呼ばれます。
当社は2018年12月に、英国Biotecnol社との譲渡契約締結により、マルチスペシフィック抗体CBA-1535とそのプラットフォーム技術であるTribody技術を取得しました。Tribodyは、最大で3種類の異なる抗原(標的)結合部位を持つことにより、単独の抗体では実現できない多様な効果を生みだすことができます。
CBA-1535は、Tribodyの最初の応用例で、結合部位の一つがT細胞と結合し、残る二つの結合部位で5T4というがん細胞に発現している標的と特異的に結合することで、一つの抗体でT細胞を効率的にがん細胞へ誘導するように設計したT cell engager抗体です。(図2)
(図2)
CBA-1535は固形がんのマウスモデルを用いた試験で強い薬効を示しており、今後、臨床試験に向けて開発を進めてまいります。
CBA-1535のように一つの標的に二つの結合部位で結合し、三つ目の結合部位でT細胞に結合するという設計の他にも、Tribody技術の最大の利点である、抗原に結合する部位が3箇所あることを活用して、二つの異なる標的(抗原)に結合しつつ三つ目の結合部位でT細胞を引き寄せる、あるいは三つの異なる標的(抗原)に結合するなど、多様なマルチスペシフィック抗体の設計が考えられます。
このようにTribody技術は抗体エンジニアリングの柔軟性を高めることを可能にし、それによりがん領域、またそれ以外の多くの疾患領域に対しても、より自由な創薬戦略を構築することが可能になります。
Tribody技術を今後の当社の技術プラットフォームとして十分に機能させるため、これまで当社が培ってきたADLibシステムなどの新たな抗体を生み出す技術プラットフォーム、および蓄積のあるタンパク質作製ノウハウと組み合わせる研究を進め、アンメットニーズに対する先進的な創薬研究を加速させていきます。