2019/11/29
カイオムニュースレター(Vol.2)
第14回PEACe学会ポスター発表~IgM抗体の高純度精製方法~
2019年9月に米国ニューポートで開催されたタンパク質科学専門学会において当社の技術研究所研究員がポスター発表を行いました。
2019年9月22日から 26日まで米国ニューポートで開催された第14回Protein Expression in Animal Cells (PEACe) Conferenceにおいて、当社の技術研究所の研究員が研究成果をポスターでの発表を行いました。
PEACe Conferenceは2年に1度開催されるタンパク質科学の国際学会で、タンパク質の発現や精製の研究、分析法の開発、また抗体医薬品の生産に使われるCHO細胞の研究などにフォーカスした学会です。
化学合成によって製造する低分子医薬品と異なり、抗体医薬品は生きている細胞に抗体を生産(発現)させて製造します。
従って、その細胞を正確に大量に培養して抗体を生産させる必要があり、より広範で高度な技術が求められ、高額な費用がかかります。
そのため、生産性や品質を高めるための研究は世界中で活発に行われ、高生産細胞を造る技術や安定して抗体を発現させる培養方法、生産した大量の抗体を効率よく高純度に精製する方法や、品質担保のために重要な分析技術は日進月歩で進化しています。
当社は抗体作製や抗体・抗原タンパク質の発現・精製を行うことで、抗体医薬品の自社開発を行ったり、製薬企業等の創薬を広く支援したりしていますので、CHO細胞やタンパク質精製技術の研究トレンドを把握できる本学会は非常に有用な情報収集の場です。
今回のPEACe Conferenceもヨーロッパ・北米を中心に南米やアジアなど世界中から、アカデミア、大手製薬メーカー、バイオベンチャー、試薬メーカーなどの多くの研究者が集まり研究成果を発表しました。
当社からは、技術研究所研究員の吉岡と王が参加して、IgM抗体を高純度に精製する方法に関する研究成果のポスター発表を行いました。
「抗体」とは、抗原(異物)に特異的に結合して異物を除去する機能を持つ生体内の分子の総称で、「免疫グロブリン(immunoglobulin)」と呼ばれ、「Ig(アイジー)」と略されますが、免疫グロブリンはその構造の違いによりIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類のクラスに分類されます(図1)。
上市抗体医薬品のほとんどはIgGであり、このIgGは抗原結合部位を2か所有しています。
今回当社が研究を行ったIgMは5つのIgGが複合体を形成した形態(五量体)の抗体で、抗原結合部位は10か所あります。
つまりIgMはIgGの5倍の結合部位を持つことから、創薬研究において、感度の高いアッセイ系の構築に応用できる可能性があります。
しかしながらIgGと異なりIgMの精製方法はいまだ確立されていません。
IgMは生体中ではほとんどが五量体として存在していることが報告されていますが、リコンビナント抗体として生産すると六量体や単量体も混在するものが生産されます。
当社独自の抗体作製プラットフォームであるADLib®システムにはIgMライブラリがありますが、さらに継続して抗体に関連する技術力の維持向上に取り組んでいます。
そのような中で今回、リコンビナントIgM抗体を発現させた細胞の培養上清から五量体のIgMのみを高い純度で生産・精製する方法を検討し、以下に示す結果を発表いたしました。
<発表内容>
1.今回の研究では発現培養時に3種の発現ベクターを細胞に共導入したが、この3種の比率が五量体IgMの効率的な生産に重要であることが示唆された。
2.精製工程では陽イオン交換精製(図2)とゲルろ過精製(図3)2ステップを実施し、カラムの選択と組み合わせにより高純度の五量体IgMを精製できることを明らかにした。
3.検討した方法で生産・精製したIgMは、同じ抗原に結合するIgGと比べて遜色ない結合活性を有しており、本検討方法で活性を有したIgMが取得できることを示した。
(図2)陽イオン交換精製
(図3)ゲルろ過精製
当社のポスター発表においては、大手製薬企業、診断薬企業、医薬品製造受託企業など多くの参加者から質問が寄せられ、調製が難しいとされるIgM抗体の当社の成果に対する評価と、IgMへの関心の高さがうかがえました。
上述のとおり上市されている抗体医薬品のほとんどがIgG抗体ですが、海外ではIgMの治療用医薬品開発を行う企業も出てきており、今後治療薬や診断薬の開発の現場においてIgMの可能性が広がっていくことが期待されます。
今回の学会発表で、IgM精製技術を有していることは、抗体医薬創出のアドバンテージになり得ると感じられる機会となりました。
タンパク質発現・精製技術や抗体作製技術は当社の重要な技術プラットフォームであり、最近の創薬支援事業の業績拡大や創薬研究の萌芽の飛躍はこの技術力に支えられているものと考えています。
今後も、当社は革新的な技術へのチャレンジを継続しながら創薬事業および創薬支援事業を推進してまいります。