2020/06/15
カイオムニュースレター(Vol.3)
ヒトADLib®システムに関する論文が掲載されました
当社が開発した抗体作製技術ヒトADLib®システムに関して、東京大学と共同で科学的検証と実用性評価を実施した成果がCellular & Molecular Immunologyに掲載されました。
東京大学との共同研究では、ヒト抗体を試験管内で簡便かつ迅速に作製するヒトADLib®システムの科学的検証と実用性評価を実施し、抗体創薬開発におけるこの技術の有用性を立証しました。
血液に含まれるB細胞は、様々な外敵から体を守るために多くの種類の抗体を産生し、免疫機能を担っています。
この“多くの種類の抗体を産生”(多様化)するために、ニワトリのB細胞はヒトとは異なる独特な方法を使っています。
それは、抗体遺伝子の近くにある「疑似」抗体遺伝子が、「本物の」抗体遺伝子と部分的に置き換わる方法(シャフリング)で、遺伝子が様々な置き換わり方をすることによって、機能の異なる多様な抗体、つまり、様々な外敵(抗原)に対する抗体が作り出されます(図1)。
ADLib®システムでは、トリのB細胞(DT-40細胞)を薬剤で処理することによって、より高頻度にシャフリングを起こし、多様な抗体を産生する細胞の集団(抗体ライブラリ)を作製します。
このライブラリに標的抗原(標的タンパク)を付けた磁気ビーズを入れ、その抗原だけに結合する抗体を産生する細胞を磁石を利用して取り出し、その細胞を培養して培養液中に分泌された抗体を単離します。
一連の操作は全て試験管内で行われ、最短10日間程度で完了するため、きわめて簡便かつ迅速に抗体を取得することができます(図2)。
このトリB細胞におけるADLib®システムの開発は、2005年に米科学誌Nature Biotechnology誌に発表され、大いに注目を集めました。
しかし、トリB細胞が産生する抗体はトリ抗体であり、ヒト用医薬品として利用するためにはトリ抗体をヒト化する必要があります。
この作業は煩雑である上、抗体の機能が低下してしまうこともあります。
この課題を解決するため、当社では、最初からヒト抗体が得られるシステムの開発に着手しました。
具体的には、トリの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトリB細胞で抗体遺伝子間のシャフリングを起こすための研究を進め、2014年にトリB細胞からヒト抗体を取得することに成功しました(図3)。
当社ではこの技術をヒトADLib®システムと呼んで、創薬プラットフォームとして実用化しています。(6月2日ヒトADLib®システムに関する日本特許査定通知を受領しました。)
当社では、実用化により抗体取得実績を蓄積する一方で、得られる抗体をより高機能なものにするための改良を加えました。
この技術改良は、ヒト抗体を産生するB細胞に変異を加えることによって、元の細胞よりも親和性が向上した(抗原への結合力を増強した)細胞を再び選び出すプロセスを付け加えるというものです。
この改良によって、容易に抗体の機能を向上させることができるようになりました。
論文では、このようにして構築したヒトADLib®システムが、抗体創薬に資する技術であることを示すために、実際に治療薬の標的となっているタンパク質のVEGF(がん等)やTNFα(リウマチなどの自己免疫疾患)に対する抗体を作製しました。
その結果、いずれの場合も、標的だけに結合し、標的の機能を阻害する活性のある抗体が取得できたことを報告しています。
また、親和性向上の改良技術によって、標的に対する結合力が最大100倍程度増強された抗体や標的の機能阻害活性が大幅に増強された抗体が得られることを示しました。
当社ではヒトADLib®システムを、社内の創薬プロジェクトや製薬企業や研究機関との共同研究、さらに、抗体作製受託に活用しています。
抗体取得から親和性向上までを一貫して迅速かつ簡便に実施することを可能にしたこの独自のプラットフォーム技術を、当社の他の技術と有機的に活用することによって、抗体医薬開発の加速化に貢献し、アンメットメディカルニーズに応えてまいります。
<発表雑誌>
雑誌名: Cellular & Molecular Immunology(オンライン版:2020年5月26日掲載)
論文タイトル: ” Streamlined human antibody generation and optimization by exploiting designed immunoglobulin loci in a B cell line ”
著者:Hidetaka Seo, Hitomi Masuda, Kenjiro Asagoshi, Tomoaki Uchiki, Shigehisa Kawata, Goh Sasaki, Takashi Yabuki, Shunsuke Miyai, Naoki Takahashi, Shu-ichi Hashimoto, Atsushi Sawada, Aki Takaiwa, Chika Koyama, Kanako Tamai, Kohei Kurosawa, Ke-Yi Lin, Kunihiro Ohta and Yukoh Nakazaki
論文全文URL:https://www.nature.com/articles/s41423-020-0440-9
<関連情報>
【IR情報】ヒトADLib®システムに関連する日本特許査定通知受領についてのお知らせ