2021/08/31
カイオムニュースレター(Vol.5)
新パイプラインPCDC(ヒト化抗CDCP1モノクローナル抗体)のご紹介
2021年7月 世界知的所有権機関(WIPO)に出願特許情報が公開されました
抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate ; 略してADC)は、近年目覚ましい発展を遂げている分野です。
『抗体』『薬物』『複合体』という名の通り、がん細胞上の標的を狙って結合する抗体に、化学的な手法で抗がん剤を結合させ、体内でがん細胞だけに抗がん剤を運んで攻撃することができるようにしたものであり、抗がん剤そのものを全身投与することに比較して、正常組織に対する毒性を弱めた上で、がんに対して高い抗腫瘍効果をもたらすことができます(図1)。
ADCに分類される医薬品としては、悪性リンパ腫に対する治療薬であるアドセトリスや、最近承認された乳がん・胃がんに対する治療薬であるエンハーツなどがあり、抗体関連の医薬品として現在最も盛んに研究開発が行われています。
カイオムの創薬研究所においては、新規治療用抗体の創製研究を続けてまいりました。
それらの中にはがん細胞だけに発現している標的に結合するだけでなく、がん細胞に結合した後に速やかに細胞内に取り込まれるというADCへの展開に適した抗体の特性を持つものがあります。
このような抗体に抗がん剤を結合することによって効率よく抗がん剤をがん細胞内に送り込むことができることができます。
カイオム独自の抗DLK-1抗体の一つであるLIV-1205は、その優れたがん特異性とADCへの適用可能性が認められ、導出先のスイスADC Therapeutics社によってADCとしての臨床開発を目指したプロジェクト(開発コード:ADCT-701)がまさしく進行中であります。
ADCへの展開に適した新たな候補として、カイオムではCDCP1 (CUB-domain containing protein 1)という標的分子に対する抗体を開発し、先般特許が公開されましたのでご報告いたします。
CDCP1はその詳細な機能は未解明の部分がありますが、がん細胞の増殖、また遊走性を獲得してがんの転移を引き起こす際に重要な分子であると考えられており、肺がん、乳がん、膵がん、卵巣がん、前立腺がんなど、多くの種類の固形がんにおいて高い発現が認められます。
また肺がんにおいては、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に耐性を獲得したがんにおいてCDCP1の発現が亢進するなど、既存の治療法の効果が低いようながんに対しても治療効果をもたらすことが期待されます。
カイオムではこのCDCP1に対して、カイオム独自の抗体作製手法であるADLib®システムを含め、複数の抗体作製手法を組み合わせることで約10,000個の抗体を創製し、その中からスクリーニングにより細胞内に取り込まれる効率が高く、正常細胞(造血幹細胞)に対する反応性の低い抗体を選別しました。
そのようにして得られた抗体をヒト化した後に抗がん剤(ペイロード)を結合した抗CDCP1-ADCを作製し、高い抗腫瘍活性を示すことを明らかにしました。
その実験例の一つを図2に示します。
この実験は、前立腺がん細胞を移植した後にある程度腫瘍が大きくなったマウスに作製したADCを1回投与し、その後の腫瘍の大きさがどのように変化するかを観察したものです。
対照群であるリン酸緩衝食塩水のみを投与したマウスでは急速に腫瘍が大きくなるのに対して、抗CDCP1-ADCを投与したマウスでは、腫瘍がほとんど消失し、その効果が長期にわたって持続するという結果になりました。
この結果は、抗CDCP1-ADCが高い抗腫瘍効果を持っていることを示しています。
今回公開された抗CDCP1抗体を、正常組織に対しては毒性が低くがん細胞に対して毒性の強いペイロード技術や、体内で効率的に薬効を発揮するためのペイロード結合技術などと組み合わせることによって、より安全で広い領域のがんに対して有効性の高いADCを作ることができると考えられます。
カイオムでは、この抗CDCP1抗体を基にしたさまざまな企業との共同開発・協業を積極的に推し進め、アンメットメディカルニーズを満たす抗体医薬品を一日も早く患者さんにお届けできるよう精力的に研究開発を進めてまいります。