2022/10/06
カイオムニュースレター(Vol.7)
がん治療用抗体「PCDC」(ヒト化抗CDCP1モノクローナル抗体)の最新情報
~World ADC San Diego 2022 において薬効薬理データを発表しました~
2022年9月6日から9日まで米国サンディエゴで開催されたWorld ADC San Diego 2022において、当社のがん治療用抗体PCDCの薬効薬理データの発表を行いました。
World ADC (https://worldadc-usa.com/)は、ADCの初期の探索研究から臨床開発、製造までをカバーするカンファレンスであり、多くのADC研究者、製薬企業が参加するADC分野では最大規模のカンファレンスです。
13回目の今年は4日間にわたり2019年以来初めて対面で開催され、様々なセミナーやワークショップに総勢100社以上が参加しました。今回のカンファレンスで当社は、データの発表と同時に、複数の企業との面談を行いました。
ADCとはAntibody Drug Conjugateの略称であり、抗体に抗がん剤などの薬物を結合した抗体薬物複合体を指しています。これまでに開発されてきたADCでは、臨床での高い治療効果が示されるなど、抗体医薬品の領域において、近年目覚ましい発展を遂げています。当社が開発したPCDCは、肺がん・結腸直腸・膵がんなどの多くの固形がんにおいて高発現するCDCP1 という標的を特異的に認識するヒト化抗体であり、当社では、PCDC独自の性質を生かして、複数の薬物を結合させADC抗体として研究を進めてきました。
<データ発表の概要>
今回のWorld ADCには、当社からPCDCのプロジェクトリーダーやライセンス活動を行う事業開発のメンバーが参加し、アマニチンの他、PBDなどの薬物を結合したADC抗体としてのPCDCの薬効薬理データを発表しました。
複数の薬物を結合したPCDCは、動物モデルにおいて強い抗腫瘍活性を示しており、また、アマニチンを結合した ADC抗体はカニクイザルを用いた非GLPの毒性試験において、予測される臨床薬効用量において毒性が低いことを示しました。
ポスター発表を行ったアマニチンを結合させたADC抗体における動物モデルの薬効試験データの要旨は、
・ヒトの乳がんまたは前立腺がんを移植したマウスに生理食塩水とこのADC抗体を一回投与
・生理食塩水を投与したマウス群では腫瘍が増大したのに対し、このADC抗体を投与したマウス群ではほぼ完全な腫瘍の退縮効果・持続がみられた
というものであり、このデータから、PCDCはヒトにおける強力な抗腫瘍効果が期待できます。
アマニチンはキノコ由来の毒素であり、抗体に付加することにより、抗体が結合する細胞の殺傷能力を高める技術です。当社はこの技術を2022年7月にドイツのHeidelberg Pharma社から導入いたしました。
今回の発表ではアマニチンのほかにもPBDやMMAEなど複数の薬物を結合したADC抗体としてのPCDCのデータを発表しており、いずれも動物モデル実験において高い抗腫瘍効果がみられています。
<発表の様子>
当社の発表には3日間で多くの方にご参加いただき、プロジェクトリーダーが説明を行う中、参加者の皆さんには大変興味深くデータを見ていただきました。主な質疑は以下の通り。
Q:この抗体が他社の抗体と比較して優れている点は何か?
A:当社の抗体は他社の抗体に比較して、ADCにとって適切な強さを持っており、また正常な細胞に対する反応性が弱いことから、ADCにしたときの毒性が低いと考えている。
Q:Heidelberg Pharmaの技術を用いて、アマニチンをペイロードの一つとして選択した理由は何か?
A:アマニチンは従来のペイロードにはない多くの有利な特性を持っており、それにより当社の抗体の薬効と安全性と高められると考えた。
また、参加者からは「新しいADCやADCに適した抗体を探している。」「この発表はデータが十分にそろっており、さらなる検討に値する抗体として非常に興味深い。詳しい資料が欲しい。」などのコメントも得られました。
<当社参加者コメント>
・PCDCプロジェクトリーダー
『これまで開発を進めてきたPCDCのデータを国際カンファレンスの場で発表できたことを嬉しく思います。ポスター発表では、製薬企業や研究機関の参加者にお立ち寄りいただき、たくさんの質疑を通して貴重な情報交換の場にもなりました。カンファレンスでは、すでに市販されているADC、後期臨床試験にあるADCも含め、多くのADC医薬品に関する最先端の発表がなされました。またADCは抗体技術だけではなく多くの要素技術を組み合わせることによってつくられますが、そのような要素技術に関する注目すべき発表も多数あり、今後もADCががん治療に大きな貢献をもたらし続けるだろうと確信いたしました。』
<ADCについて>
ADCとは、Antibody Drug Conjugateの略称であり、抗体に抗がん剤などの薬を付加した抗体薬物複合体を指しています。ADCは『抗体』『薬物』『複合体』という名の通り、がん細胞上の標的を狙って結合する抗体に、化学的な手法で抗がん剤を結合させ、体内でがん細胞だけに抗がん剤を運んで攻撃することができるようにしたものであり、抗がん剤そのものを全身投与することに比較して、正常組織に対する毒性を弱めた上で、がんに対して高い抗腫瘍効果をもたらすことができます。
ADC抗体は、標的に結合する(がん細胞を認識する)抗体と、がん細胞等に対する殺傷効果を持つ薬剤、抗体と薬剤を結びつけるリンカーという部分で構成されます。(図1) 標的や薬剤の組み合わせによって様々ながんに対して、副作用が少なく効果の高い治療薬を開発することが期待できます。
<PCDC について>
PCDC は、肺がん・結腸直腸・膵がんなどの多くのがんにおいて高発現し、がんの悪性度と相関した発現パターンを示す CDCP1 という標的を特異的に認識するヒト化抗体です。PCDC は、がん細胞の表面に発現している CDCP1に結合すると細胞内部に取りこまれる性質(インターナリゼーション活性(図2))があります。
当社はPCDCに抗がん剤を結合したADC抗体を作製し、PCDCが持つインターナリゼーション活性を利用して、効率よく抗がん剤をがん細胞内に送り込む治療薬としての開発を進めてきました。結合した薬物の中でもアマニチンは先述の発表データの通り高い抗腫瘍活性を示しています。ドイツのHeidelberg PharmaのATAC®Platformはキノコ由来の毒素であるアマニチンを活用したADC技術であり、当社はこの技術を2022年7月に同社から導入いたしました。
<PCDC の導出活動の状況と今後>
当社では現在、PCDCの導出活動を積極的に進めており、導出候補先企業として、2つの企業群にアプローチしています。
・独自のADC技術を保有しており、当社の抗CDCP-1抗体との組み合わせで新たなADCを開発したい製薬企業
・開発パイプラインを拡充するため、抗CDCP-1抗体のADCが欲しい製薬企業
PCDCの開発を進めたい企業に導出契約を締結することで、当社は契約一時金の獲得、ならびに将来の収益源であるマイルストン収入やロイヤルティ収益等の経済条件の設定を行っていく予定です。
PCDCは、今後の当社の成長に向けた重要なプロジェクトであり、当社は、ライセンス契約獲得に向けて導出活動を進めてまいります。